もぐさは「篩」なのか?

ご無沙汰しています(※注1)。サボっていた訳ではないのですが….。
この一ヶ月間は修行僧の如く過ごしておりました。既にもぐさ蔵の件でご案内致しましたが弊社の場合、精製度の高い‘もぐさ’(※注2)は製造してから数年間はもぐさ蔵で保存します。でもその間には‘もぐさ’の成熟度を確認する為に‘もぐさ’の出来栄えと掃除を兼ねた作業を行う必要があります。江戸時代後期から続く伝統作業と言えば重厚な感じにはなるのでしょうが、‘もぐさ’を少量篩に取って不純物が混じっていないか‘もぐさ’に「シノ」はないか、「サイ」はどうかなど細部にわたるチェックを行いつつひたすらシェイク&シェイク。腕も脚も腰もパンパンです。お灸は一日にしてならずなのです。
『最後は人の目で』先人の知恵にも少しだけ反駁です。(笑)

江戸時代後期から続く伝統作業とは?

江戸時代、中山道柏原宿には「亀屋」と名の付く屋号のもぐさ屋は十数件あったと伝わっています。この時代「伊吹もぐさ」の言葉は広く庶民の間にも広まっており、中山道を行き来する多くの旅人がこの柏原宿で家族やご近所さんのお土産にまたまだまだ続く歩き旅のお供の品としてもぐさを買い求めた姿はもはや旅の風情であったかのような気がします。どの店に入っても「亀屋」。どこで‘もぐさ’を買っても「亀屋」。「良いモグサを持ってるね、何処で買ったの?」-「亀屋」。「なんだよ、熱いだけのモグサじゃないか、何処のモグサだ?」-「亀屋」。などという会話が交わされていたのかもしれません。楽しみにしてお立ち寄り頂き、折角お客様にお買い求めて頂いたもぐさ。インターネットを介してのSNSなどは流石に無くても、全国行脚の旅人たちの口コミによる真のSNSはどうなのよ?と当時の亀屋の主人が一堂に会し話しを行うこと十数回(※注3)。「良くても亀屋、悪くても亀屋。より良い品質のもぐさはどうして作ればばよいのか?お客様の信頼を得るにはどうすれば良いのか?」で導き出した答えが『もぐさを篩に置いてのシェイク&シェイク』。品質の良し悪しを最後は人の目で確認する作業、この作業を十数軒全ての亀屋に義務付けたのでした。「何処の亀屋で買っても、同じ品質のもぐさを提供させて頂く」。近江商人の知恵と工夫の一端が垣間見られる気がします。

伊吹もぐさと亀屋

今でこそ地域ブランドという言葉も一般化してきていますが、江戸時代末期に地域名と商品が結びついたブランドネームを意識したことは大変に貴重な存在だったのかもしれません。今となっては弊社一軒だけが中山道柏原宿でもぐさの商いを行っていますが。それでもなお今も受け継ぐ篩作業。伊吹山の麓でもぐさを作ることは勿論ですが、「中山道柏原宿で商う」この事こそが伊吹もぐさの所以なのではないでしょうか。あの日この場所中山道柏原宿で旦那衆が話し合った『最後は人の目で』の気持ちが正に「伊吹もぐさ」のブランドに相応しいと自負しております。また『街道をゆく-近江道散歩』の一文節で司馬遼太郎氏は中山道柏原宿の様子を以下のように紹介しています。

江戸期に、この山中の宿場で、街道に面してもぐさ屋が十数軒もあり、明治後は一軒きりになってしまったが、江戸期はどの店も繁盛していた。中山道を往来する旅人は、伊吹山の南麓の柏原宿場に入ると、たいていはもぐさを買う。とくに参勤交代のための大名行列がこの宿場にとまったりすると、ひとびとはあらそって江戸や国もとのみやげに袋入りのもぐさを買った。おもしろいことに、どのもぐさ屋も「亀屋」という屋号を名乗っていた。鶴は千年、亀は万年という。その亀のイメージで薬効を象徴させていたのである。おかしさは、おそろいで「亀屋」だったということで、このことは近江商人がたがいに足をひっぱりあわないという気風とかかわりがあるとみてよい。

唐箕作業風景
最後は人の手で。伊吹もぐさの歴史を紡いでいます。

(※注1) 2012/10/31-お灸の故郷、伊吹もぐさ亀屋佐京商店facebookの記事を追記・編集しました。
(※注2) 学校様への出張講演活動を通して気が付いたことの一つに「粗悪もぐさ」という表現があるという事です。私が講演を行った全ての学校で使用されている表現で温灸用のもぐさを指している模様です。また「粗悪もぐさ」とテキストにも記載されています。もぐさは必ずヨモギを使いもぐさを製造する訳ですから、もぐさ屋の立場からお願い出来るとするならば、「精製度の高いもぐさ」とか「精製度の低いもぐさ」or「それほど精製されていないもぐさ」と言っていただけると非常に有難いです。確かに最高級品位のもぐさを製造する際に使用するヨモギで「精製度の低いもぐさ」を製造販売することは皆無ですが、温灸もぐさも決して粗悪な商品では御座いませんし粗悪な原料を使用する訳でも御座いません。例によって例の如く何方かを責めようとか誰かを非難するつもりは毛頭御座いません。ご留意ください。
(※注3) 話の流れでの言葉遊びです。真偽の程は調査中。